昨日のできごと

 午前中は出張。普通電車で某市まで。僕の向かい側の席に座った、野球バッグを持っていた高校生が『月刊高校野球』なる雑誌を読んでいるのを見て、なんだかビジネスパーソンが『週刊東洋経済』や『日経ビジネスアソシエ』を読むみたいでかっこいいなあ、と思った。ほんとか。用事を済ませ、昼過ぎに戻り、駅から図書館へ直行。仕事で必要な記事をコピーするのに、雑誌のバックナンバーを出してもらおうとすると、ここの所蔵ではなく、電車で一駅いったところにある分館にあるという。コピーの取り寄せは可能、ただし数日かかるとも。早く目を通したかったし、午後はこれといった予定がなかったのでそのまま分館の方へ行く。電車で一駅。そこから徒歩。駅から「すぐ」と図書館利用案内に書いてあったのに、ない。さまようこと20分。見つからない。さすがに道を間違えた、と思って先に進むのをやめ、元の方向へ引き返す。ひとがいないので訊けない。困った、タクシー拾おうか(でもすぐそこだったら申し訳ないし)、と思いながら歩いていると、向こうから40歳くらいの女性が歩いてくる。さっそく尋ねて教えてもらう。ただ、自信がない、という。間違ってたらごめんなさいね、とも。とはいえ、縋ることのできるものは何一つないのでその通りに進む。やっぱりない(苦笑)。どこかに交番でもないか、と思いながら歩いていると、自家の庭の、道に面した箇所に看板を立てている最中のおじいさんと遭遇。
 「お爺さん、お爺さん。」
 「はあ、私けえ」
 と、一言で直ぐ応じたのも、四辺が静かで他には誰もいなかった所為であろう。そうでないと、その皺だらけな額に、鉢巻を緩くしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色で、長閑に鍬を使う様子が---あのまたその下の柔な土に、しっとりと汗ばみそうな、散りこぼれたら紅の夕陽の中に、ひらひらと入って行きそうな---暖かい桃の花を、燃え立つばかり揺ぶって頻りに囀っている鳥の音こそ、何か話をするように聞こうけれども、人の声を耳にして、それが自分を呼ぶのだとは、急に心付きそうもない、恍惚とした形であった。と、泉鏡花の『春昼』の冒頭部分を引用してみました。「お爺さん、お爺さん」と、なれなれしく話しかけることはできないので、「すみません」と近づいて声をかける。そのとき、看板に何と書いてあるかはじめて気づく。「ここで犬猫に糞尿をさせることを禁ず」。うわっ、気難しいひとに声をかけちゃったのかしらん、と思ったら、わかりやすく丁寧に、わざわざ地図まで出して教えてくださった。図書館というのだからそこそこ大きい建物を想像していたら、「分館」というだけあって、児童館のひと部屋が図書室になっているだけのもので、しかも住宅街の真ん中、住宅に囲まれた場所にあるのだという。礼を述べて、また歩く。それにしても、さっきの看板。犬猫に糞尿をさせることを禁ず、というのは、人間が犬や猫に「させる」ことを禁じているのであって、犬やら猫やらが、おい、このへんで済ませようぜ、と自発的に行為に及ぼうとすることまで止めようとしているわけではないのだなあ、と愚にもつかぬことを考えているうちに到着。確かに、駅からまっすぐ来れば5分もかからないところ。図書館に入ると、ずっと歩いていきたせいか蒸し暑く感じる。図書館って涼しいところなのにねえ、と思うまもなく、カウンター付近に貼ってある文句が目に入る。「地球温暖化防止のため、冷房は28度に設定しています」。暑い。さっさと用事を済ませ、また一駅電車に乗って戻る。すでに15時を過ぎてるし、なんだか疲れてしまったので、駅ビル内の本屋へ行く(理由になってない?)。この本屋へ行く手前にステラおばさんのクッキー屋さんがあり、そこから殺人的な甘い香りが漂ってくる。食べたい気持ちを抑えつつ、本を2冊と『和楽』のバックナンバー(「能」特集。それから地中美術館。行く前から勉強してどうするんだ)を購入。次に郵便局へ行き、古書の代金の払い込み。番号札発行機(?)があるけど、待っているひとは一人もいないので札をとらずに貯金の窓口へ行くと、「番号札をとってください」と言われる。客は誰もいないのに、と思いながら番号札をとると、すぐ機械の声で「*番のカードをお持ちのお客様、窓口へお越しください」と呼ばれる。何をやってるんだかわからない。番号札で客の数でも数えてるのかねえ。よくわからない。郵便局を出たところで携帯に着信。デパートの靴屋から。先日依頼しておいた、踵の修理が済んだ、とのこと。せっかくなので、そのまま靴を取りにいく。両足で3,000円ほど。靴はきれいに磨かれていて、愛着のある靴がきれいに戻ってきたのはうれしい。他にも買い物をして、クレジットカードで支払う。伝票を出され、こちらにサインと電話番号を、と言われる。えっ、電話番号って書かなくていいんじゃなかった*1、と確認すると、念のためです、という。だったら君は現金客にも念のため電話番号を聞くのかね、とは言わなかったけれど、個人情報漏洩が恐いというよりも、カード会社が書く必要なしと会員に周知していることを知っているのにわざわざ書く必要もなかろう、と思ったので、店側から求められても電話番号を書く必要がないってカード会社が言ってましたよ、と指摘すると、そうですね、それじゃいいです、と。なにそれ。その後、職場に戻り、食事会に出て帰宅。すると、郵便受けに絵はがきが一枚。従妹から。彼女は今年高校2年で来年度受験。僕と同じ大学が第一希望だというので、僕が帰省した際、話を聴きにきたのだった。たいした情報は伝えられなかったと思うし、ちょうど家にいた妹は、ミスコンで優勝してアナウンサー目指せ、などと無意味なことを言い出す始末。んで、そのとき僕はちょうど本の整理中だったので、欲しい本があったら持っていっていいよ、と彼女に言ったら、ジョーン・エイキンというひとの『ぬすまれた夢』(くもん出版)を取り出してきて、もしよければこれが欲しい、という。小学生の頃図書館で読んで、最近読み返そうと思ったものの、絶版で手に入らなかった、手元に置いておきたい本とのこと。児童書は子どもが読むだけあって、古本として出回らないことが多いし、あっても状態が悪いのばっかりだと。幸いわが本棚のは割ときれい。だけれど、僕にはこの本を読んだ記憶がなく、妹に訊いても記憶にないという。いずれにしても、彼女がものすごく欲しがっているのだから喜んで進呈した。んで、昨日届いたのはそのときのお礼状。照れくさい。けれど、やっぱりうれしいものだ。昨日買った本はこちら。