自動水栓

 今日の午前中の話。トイレで用を足し、手を洗う。うちの職場のトイレにはセンサーつきの蛇口がついている。そう、手をさっと差し出すとセンサーがそれを感知して水が流れ、手を引っ込めると水流が自動的にとまるという、あれです。手を洗い終えて、ハンカチで濡れた手を拭う。ここまではいつもと同じだった。ここから、小さいけれど確かな戦いが始まったのだ。
 手を拭いていると、うっかりハンカチをシンクに落としてしまった。さっととろうとして、手がとまった。ハンカチが落ちたのは蛇口の下あたり。このままさっと手を伸ばせば、間違いなく水が流れて、ハンカチはびしょ濡れになってしまう。シンクに落ちた時点で少し濡れてしまっているのは仕方ないとして、今日一日、濡れたハンカチを使わなければいけないかと思うと、ぞっとする。んー、困った。
 どうすればいいのか。ハンカチをこれ以上濡らさずに救出する方法はあるのだろうか。まず頭に浮かんだのは、迂回作戦だ。そう、右側にあるセンサーつき蛇口に感知されないように左方から手を回し、ハンカチを敵の手から奪還する方法だ。腕をP字型に曲げる必要があるが、これが一番安全だろうと思う。とはいえ、この方法は、卑怯といえば卑怯だ。やはり、敵と相対して、正面突破を目指すのが武士道(?)ではないのか。センサーに感知されないほどの目にもとまらぬ早業で、投げる手裏剣ストライクといえば忍者ハットリくんだけれど、センサーに感知されないスピードで手をさしのべ、ハンカチを救出することができれば、武士として、これにまさる喜びはない。たとえ戦に負けてしまっても、だ。ここは正面突破でいこう。そう決めた。
 と、ここまでうだうだ書いてきたのだけれど、結論を言えば、ハンカチはびしょ濡れになってしまいましたとさ。というか、ここまでのは作り話で、本当は、落とした瞬間、自動水栓だということをすっかり忘れて手を伸ばし、ハンカチはもちろん、スーツとシャツの右袖部分まで濡れてしまった、というわけ。八つ当たりで提案。洗面台メーカー各社開発担当さま、自動水栓解除スイッチをどこかにつけておいてください。