「水」

 昨日、県内の公立高校の入学試験が行われ、今日の地方紙の朝刊には問題と解答が掲載されていた。国語ではどんなひとの文章から出題されたのだろう、と興味をもって見てみると、第一問はこんな文章で始まっていたので驚いた。「落語家は、一生言葉に対する感覚を磨いていかなければならない職業である。古今亭志ん生三遊亭円生古今亭志ん朝といった名人は、高座の時はもちろん、日常生活において、見聞きする言葉、自分が発する言葉に対して敏感な感受性を持っていたからこそ、あのような話芸を身につけることができたのだろう。落語家の人生とは、つまりは絶えざる言葉の修業であると言っても良い」。中学生に落語論かよ、と思って出典を見てみると、養老孟司茂木健一郎『スルメを見てイカがわかるか!』(角川書店)とのこと。
 第四問はこう。「『水』という漢字を使って熟語や語句を一つ作り、それを題にして、二百字程度の文章を書きなさい」。解答にあたっての注意があって、1.解答欄の[  ]に題を書くこと、2.二段落構成とすること、3.「〜である、〜だ。」調で書くこと、となかなかうるさい。実際に解答してみよう。とはいえ、この問題、考えれば考えるほど書けなくなりそうだ。
 まず「水」を使った語句は「水琴窟」あるいは「水菓子」というように、理想としては、タイトルを見ただけで採点者に「おっ」と思わせたいものだ。んで、「水」という漢字が含まれる題の文章であればなんでもよいから書け、と。「水」をめぐる自分の経験をもとに何か主張せよというわけじゃない。小説でもなんでもいいわけね。
 解答例1。題は「水餃子」。「日本で餃子と言えば焼餃子だが、本場中国では水餃子がメジャーである。ここではその作り方を紹介していきたい。(二段落との指示があるので改行)以下は10人前の材料である。まずは餡から。豚肉ミンチ500グラム、白菜は1/2玉。ニラ、白葱、生姜、筍。これらはお好みで調節してもらいたい。次に皮に移ろう。強力粉1キロ、食塩大さじ1。これで100枚近い皮ができる。ぜひ水餃子の旨さを採点者諸君にも味わって欲しいものであるがこの辺で紙幅が尽きたようだ。」(201字)
 解答例2。題は「水死体」。「事件の第一報が三浦のもとに入ったのは明け方のことだった。『警部、水死体です。山さんは殺しだと言ってます。すぐ来ていただけますか』。『すぐ行く』。電話を切ると、隣で寝ていた妻が心配そうにこちらを見ている。『これから出かけるよ』。『こんなに早いのに』。『ホシは今も逃げてるんだ』。『ええ、そうね。お茶でも入れます』。『ああ頼む』。(改行)妻がいつもの茶碗に番茶をつぐと、茶柱が立っていた。今回の事件は早く片が付きそうだ。」(204字)
 解答例3。先日、どこかの入試で漢字の書き取り問題の答えが課題文の別の箇所に書いてあった、というミスがあったらしいけれど、今度はその手でゆきたい。題は「水曜日」(試験が行われたのは水曜日)。「今日は水曜日である。公立高校の入学試験が県下で一斉に実施されている。(改行)国語の試験では、『水』という漢字を使って熟語や語句を一つ作り、それを題にして、二百字程度の文章を書きなさい、という問題が出た。しかも、解答にあたっての注意が三つある。まず、題を書くこと、二段落構成にすること。それから、「〜だ」「〜である」調で文章を書けということだ。つまり、「ですます」調ではいけない、ということである。」(194字)
 今日は朝から快晴。ただし風が強いぶん、寒く感じる。いつものように昼休みに散歩に出る。今日は本屋Bへ。洋書コーナーで『Pride and Prejudice』のペーパーバックを見つけた。キーラ・ナイトレイの表紙に誘惑され一瞬買いかけたものの、思いとどまった。

Pride and Prejudice

Pride and Prejudice