小津安二郎・宗方姉妹(むねかたきょうだい)より

「満里ちゃん、あたしそんなに古い? ねえ、あんたの新しいってこと、どういうこと? どういうことなの?」
「お姉さん、自分では古くないと思ってらっしゃるの?」
「だからあんたに聞いてるのよ」
「お姉さん、京都行ったってお庭見て歩いたりお寺回ったり」
「それが古いことなの? それがそんなにいけないこと? あたしは古くならないことが新しいことだと思うのよ。ほんとに新しいことは、いつまでたっても古くならないことだと思ってんのよ。そうじゃない? あんたの新しいってことは、去年はやった長いスカートが今年は短くなるってことじゃない。みんなが爪を赤くすれば、自分も赤く染めなきゃ気がすまないってことじゃないの? 明日古くなるもんだって、今日だけ新しく見えさえすりゃあんたそれが好き? 前島さん見てごらんなさい。戦争中先にたって特攻隊に飛び込んだ人が、今じゃそんなことケロッと忘れて、ダンスや競輪(に)夢中になってるじゃないの。あれがあんたのいう新しいことなの?」
「だって世の中がそうなんだもの」
「それがいいことだと思ってんの?」
「だってしょうがないわよ。いいことか、悪いことか、そうしなきゃ遅れちゃうんだもの。満里子みんなに遅れたくないのよ」
「いいじゃないの、遅れたって」
「いやなの。そこがお姉さんとあたしとは違うのよ。育った世の中が違うんだもの。あたしはこういうふうに育てられてきたの。悪いとは思ってないの。あたし行ってお父さんに相談してくる」
「行ってらっしゃい。お父さん、何とおっしゃるか」